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隣接地を纏めて売却~限定価格実践編~

 不動産は分筆・合筆できます。合筆とは、例えば20坪の土地があって、隣の10坪の土地を合わせて30坪の土地にすることです。ご相談を受けた土地は駅至近の商業地でした。当初は売却するために市場価格を知りたい、周辺の不動産屋さんにヒアリングしたところ業者さんによって価格のバラつきが大きく何を信用して良いか分からない。だから、おたく(木村鑑定さん)に鑑定してもらいたい、というものでした。確かに、商業地の価格は一筋縄にはいかないものです。住宅地であれば相場がしっかりしていて大体の相場は把握しやすいものです。しかし、商業地は立地の違い、利用用途や建物計画によって単価は倍半分の差異が生じることはよくある話です。駅前の商業地であれば尚更顕著です。この通りは人通りが多く繁華性が高い、一本逸れると急に薄暗くなる。表通りなら大手飲食店でも出店の引き合いがあるが、路地に入るとからっきし。賃料は1階坪5万円だけど、2階以上は坪2万円にもならない、しかも空室が目立つ。前面道路幅員や土地面積によって建てられる床面積や賃貸面積比率(レンタブル比)が異なり有効活用に大きな差が生じる。といった具合に商業地は計画用途や建物規模などによって土地が持つポテンシャルが全く異なり、ぱっと見では同じ土地でも空間利用の観点から見ればその違いが明らかになってきます。つまり、商業地の場合は、単純に駅前の土地は坪◌◌百万円とは言えないのです。仮にも不動産鑑定士であればそんないい加減な返事は出来ません。

 さてご相談頂きました本件について話を戻します。対象地(相談された土地)は約20坪でした。役所で定められた指定容積率は500%です。ところが前面道路が約6mですので基準容積率は約360%(≒前面道路幅6m×商業地の係数0.6)に低減されます。日影規制はありませんので道路斜線によって5階建の1・2階店舗、3~5階共同住宅が計画されました。建蔽率は80%+10%(耐火建築物)=90%ですが、各階には階段、廊下が配置されるためレンタブル比は70~80%です。これは、目検討ではなく建築プランを実際に作図して初めて把握することができます。このような条件のもと、最有効使用を建築する前提で、出来上がりの想定収益ビルの収支より純収益(総収益-総費用)を求めて、これを還元利回りで資本還元して得た想定収益ビルの収益価格から建物建築費を控除すると、土地の収益価格を求めることができます。他方、鑑定評価では、土地の取引事例を収集して対象地と比較検討することにより比準価格も求めます。これら得られた収益価格および比準価格を比較考量して対象地の鑑定評価額を決定します。さて、実際に売却をする場合の話ですが、この理論値(鑑定評価額)でそのまま売却活動をすることは稀です。というのは、現実の市場では、不動産には個別性や稀少性が認められる場合、需要者はさらに高値であっても購入するインセンティブが働くからです。したがって、これらのプレミアムを乗せた価格を売主には提示して売出価格とするのが通常です。

 また、本件の話に戻ります。実は、お隣の土地約10坪も売却したいという話になったのです。これはラッキーです。というのは、20坪よりも30坪のほうが稀少性アップ、レンタブル比(賃貸面積比)アップ、狭小地よりも規模が少しでも纏まった方が建築費も単価的に抑えられる傾向もある、つまり、土地のポテンシャルが上昇するため売却単価がより高く設定されるということなのです。ここで10坪の側から見てみましょう。そうです、とても小ぶりです。せいぜい建てられるとしても木造3階建が精いっぱいでしょう。ところが、30坪になると5階建RC造も建築できるのです。そして、10坪はこの30坪の土地の一部を構成するため、30坪の土地の単価で売却することが出来るのです。10坪単体の単価と、30坪の単価では約1.5倍の乖離がありました。20坪と30坪では約1.2倍の乖離です。つまり、この乖離が増分価値と言われる土地の集約によって生じた価値なのです。不動産鑑定評価基準では、この増分価値を含む価格のことを限定価格と呼び、つぎのように定義されています。

 「限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産 との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場 概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相 対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正 に表示する価格をいう。 限定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。 (1)借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合 (2)隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合 (3)経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合」

 本件はまさに(2)隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合なのです。実は、対象地と隣接地(併合された土地)はいずれも古家が建っていました。建物の除却費用は杉並区の助成金を活用して、一体地としての売却が実現されました。不動産の鑑定評価を通して、さまざまな価値に対するアプローチを実践することで、お客様のニーズに応えるのがモットーです。お預かりした不動産の単純売買だけではなく、その価値の最大化を試みて、これまで培ってきました鑑定評価に建築、仲介まで一連のサービスを有機的に提供することによって、お客様の利益最大化を図ります。何かのご縁で当社を訪れていただきましたお客様に寄り添って、専門職業家としての知識・ノウハウ・知恵をスタッフ一同が協力して向き合い、今後とも顧客ニーズに応えて参りたい所存でございます。